事業を家族や第三者に承継するに際し「事業承継税制」を活用したいが、その具体的内容がわからない。
また、国税庁のページを見たが説明が複雑でよくわからない。
この記事ではそういった方に向けて、平成30年に改正された「事業承継税制」についてわかりやすく説明したいと思います。
この記事の目次
事業承継税制とは
「事業承継税制」とは中小企業の後継者が、上場をしていない会社の株式を先代の経営者から引き継いだ場合に相続税・贈与税の支払いが猶予されるという制度です。
ただし、その中小企業が都道府県知事の認定を受けている必要があり、その他にも細かな条件がいくつかあります。
「支払いが猶予される」という説明だけを見るといい話のような気がしますが、条件を満たすのが難しく、使い勝手のいい制度ではありません。
具体的には「承継した後に平均して5年間、8割の雇用を維持すること」という条件があります。例えば、社員が4人のだった場合、その8割は3.2人となるので、1人でもやめた時点で条件を満たさなくなります。
もし、これらの条件を満たさなくなった場合、猶予されていた税額の一部または全部をすぐに納めなければなりません。
今後の5年も従業員の雇用を8割維持することができるかどうかは誰も保証できないので、この制度を迂闊に使うと突如痛い目を見る可能性もあるため注意が必要です。
事業承継税制の特例措置
中小企業の休廃業が社会問題となっている中、国もが使いにくい制度をそのまま放置しているわけには行きません。
そこで、平成30年4月から事業承継税制の特例措置を始め、かつての事業承継税制の各種条件を緩和しました。
特例措置適用後の事業承継税制の具体的な内容は以下で説明します。
事業承継税制の何がメリットなのか
後述する条件を満たせば、事業承継に関わる相続税や贈与税が全額猶予されます(特例措置が施行される前は相続税に関しては80%まででした)
これにより「とりあえず息子に事業を承継しておいて、会社の今後はその後に考える」といった時間稼ぎをすることができます。
中小企業の事業承継では、先代が急に亡くなってしまい、慌てて子供が後を継ぐということが往々にして起こりえます。
先代が元気なうちに子が余裕を持って引き継ぎの準備をしておくのが理想的です。
ですが、体調の急変などで、突如として承継しなければならなくなり、贈与に際し多額の税金の支払いをしなければならなくなるという問題が頻発していました。
事業承継税制の特例措置によって、この支払いに猶予が持てるようになったのです。
また、今回の特例措置の対象は親族以外にも広がりました。そのため、後継者の条件を満たしていれば、工場長や従業員にも贈与税の支払いを猶予しつつ、会社を引き渡すことができます。人数に関してもかつては1人まででしたが、3人まで猶予の対象になりました。
猶予の条件
会社の主な条件
- 中小企業であること
- 上場会社、風俗営業会社でないこと
- 従業員が1人以上であること
- 資産保有系会社(資産運用でたくさん稼いでいる会社)でないこと
先代経営者の主な条件
相続税・贈与税共通
- 会社の代表者であったこと
- 経営者と経営者の親族で議決権の半分以上を保有していて、その中で最も多くの議決権を保有していること
贈与税のみ
- 贈与時に代表者を退任していること(有給役員として残ることはOKです)
後継者の主な条件
相続税・贈与税共通
- 相続もしくは贈与された後に、後継者と後継者の親族で議決権の半分以上を保有していること
- 後継者が1人の場合、後継者の親族の中で最も多くの議決権を保有していること
- 後継者が2人または3人の場合、議決権の10%以上を保有し、他の後継者を除く、後継者の親族の中で最も多くの議決権を保有していること
相続税のみ
- 相続開始の直前に役員であり、相続開始から5ヶ月後に代表者であること
贈与税のみ
- 贈与された時に20歳以上で、贈与される3年以上前に役員でありかつ代表者であること(親族である必要はありません)
相続・贈与後の主な条件
- 5年間、後継者が会社の代表者であること
- 5年間、後継者が筆頭株主であること
- 猶予対象株式を保有し続けること
手放した場合、その分だけ贈与税を納めなければなりません
- 雇用の8割以上を5年間平均で維持することができなかった場合、その理由を記載した報告書を提出すること ※特例措置により条件が緩和されました。
免除の主な条件
ここまでの説明はあくまで、相続税・贈与税が「猶予」されるための条件についてです。
ここからは猶予された相続税・贈与税が「免除」されるケースを解説します。いずれかの条件を満たした上で所定の手続きをする必要がありますが、こちらも確認しておいて損はありません。
贈与税
- 先代経営者が亡くなった場合
- 後継者が亡くなった場合
- 会社が倒産した場合
- 期間内にやむを得ない理由により会社の代表権を有さなくなりその後に免除対象贈与を行なった場合
- 期間後に免除対象贈与を行なった場合
相続税
- 後継者が亡くなった場合
- 期間内にやむを得ない理由により会社の代表権を有さなくなりその後に免除対象贈与を行なった場合
- 期間後に免除対象贈与を行なった場合
事業承継制度の注意点
事業承継税制の恩恵を受けるには、所定の手続きをしなければなりません。
必要な手続きを忘れてしまったり、提出すべきものを提出しなかったりしてしまうと、猶予や免除が取り消されてしまいます。
提出すべき書類やその書き方に関しては下記のリンクに一覧でまとまっているので参考にしてみてください。。
おわりに
この記事では、事業承継税制と特例措置について説明しましたが、ここで述べた以外にも細かな条件が存在します。細かな点についても気になる方は、下記のリンクをご参照ください。
事業承継の方法には
- 親族への承継
- 従業員への承継
- M&Aによる承継
の3種類がありますが、事業承継税制はこれらのうち最初の2つの方法に関係がある税制です。
近年では、M&Aによる第三者への事業承継も有効な手段として認められてきており、その場合今回解説したような細かな制度を気にする必要はありません。
後継者についてお考えの際には、第三者に売却するという方法もぜひ選択肢の1つとして検討してみてください。
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